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5回にわたり、グノーブルの算数科・数学科の4名の先生による座談会を連載いたします。

 グノーブルでは、中学受験の算数、中学部の数学、大学受験の数学を指導するもの同士が密に連携し、一貫した方向性のもと、生徒一人ひとりに眼差しを向け、一人ひとりが真の力を培える支援をしていきます。高い次元での「算数・数学の連携」を確立するために私たちが行っていることについて、先生方による座談会の様子をお届けします。(本連載はグノレット14号掲載の「グノーブル 算数×数学講師座談会」と同じ内容です。)

sanada眞田:現在の中学受験では、きちんと演習を積んで、そこで身につけた力を応用・発展させながら答えを出す問題に加え、思考力を試す問題が増えています。立体を頭の中で想像する、紙を折って規則を考える、表に整理して規則や起こりうる場合の数を考えるなどといった問題です。日ごろから地道にコツコツ勉強して算数の基礎力や処理能力をつけることは大切な前提ですが、その場で柔軟に考えられることがますます大切になっています。中学受験が盛んになり始めた30年くらい前に見られたいわゆる難問奇問は、今ではすっかり影を潜めるようになりました。

miura2三浦:中学受験で要求される知識の量は少なくありませんが、入学試験では単なる知識の多寡ではなく、頭の中にある知識をその場で上手に活用し、「知識を組み合わせると何ができるのか」、さらには「その先をどう考えるか」という点こそが問われるテストになっています。

 たとえば筑波大学附属駒場中の問題には興味深い配慮があります。問題文中で題意を取り違えやすいポイントに、受験生へ注意を促す傍点や傍線がつけられているのです。学校側の意図する、「受験生に考えてほしいポイント」を外されると入学試験としての意味が弱まってしまいます。入学試験の場で、受験生の思考力を十分に見たいという学校側の思いが表れているのだと感じます。

oda纓田:思考力を働かせるには基礎力が身についている必要はありますが、生徒たちが頭を使うこと自体が楽しいと思える授業の工夫が大切です。中学生の指導において、特に1年生の頃は大学受験まで時間もありますし、カリキュラム的にも少し余裕があるので、まずは生徒たちが数学を楽しく感じること、数学の世界に興味を持ってくれるように導くことを重視しています。

 授業では、着眼点さえしっかりしていれば知識が少なくても解ける問題、たとえば、実際には高校で勉強するような内容でも、中学1年生が見方さえ分かれば解けるような問題、数学的な考え方が高められるような問題を考えてもらっています。

 つい先日は、中1の授業で、絶対値がついた方程式を宿題にしました。絶対値を本格的に学ぶのは高校1年生ですが、生徒たちは一生懸命取り組みます。しかし、ただ解けて終わりではなく、その問題を通して独学では到達しにくい視点に気づけるように工夫しています。こういう経験を重ねることは、生徒たち自身の着眼点が養われていきます。それが発想力の豊かさにつながります。

 この問題では方程式の解の位置を、グラフ(関数)を用いて表します。視覚化することで答えるべき位置、解の個数が一目で分かるという説明をします。中学1年生には少し難しい話にも関わらず、生徒たちは目を輝かせて話を聞いてくれます。そして、解の個数を変えるにはどうしたらいいのかとか、どうしてこの解が存在しないのかとか、いろいろ考えるきっかけを与えていくと、皆が夢中に考えていきます。

 私たちが問題選びをするときは、「こういうことを教えたい」という思いがあります。その思いを伝えるために、「こんな見方もできるよね」ということを気づかせるようにします。視点が変わると見え方が変わったり、隠れているものが見えてきたりしますから、生徒たちも「なるほど!」という思いを感じ、楽しみながら考えるようになります。別の見方に気づくこと、考え続けることの積み重ねが、数学的思考の幅を広げ、抽象化する力を高めることにもつながります。

koshikawa越川:大学入試についても、以前は、難問や奇問、計算量が莫大な問題が出題されていましたが、近年は、きちんと演習を積めば正解できる問題や、パッと問題を読んだときに解いたことがないと思える問題であっても、各単元の本質を理解し、他の単元とのつながりが分かっていると方針が立つ問題が多いと思います。

 東京大学の文系入試を例に挙げれば、整数が題材になった問いや、図形分野の問いなど、発想の柔軟さを問う良問が出題されます。たとえば、図形分野の問いは、出題形式がベクトルや座標平面だったとしても、意図的に初等幾何的な見方をすることによって簡単に糸口が見つかったりすることもあります。

 高校数学において初等幾何を、深く学ぶことはほとんどありません。また、ベクトルなどの単元では、幾何的な考え方をせずに、数式化して計算で図形を解析するトレーニングを行います。しかし、実際の試験となれば、幾何的な見方で楽に解けるのであればそれで一向に構いません。アプローチの仕方に制限はないのです。

 受験まで時間のある中学生の頃に、それこそ3日間くらいかけて、ようやく「分かった!」といったような経験を多く積んできた生徒の方が解法の引き出しが多く、問題解決能力の高さや視点の幅広さといった点において、アドバンテージがあるように思います。

眞田:算数の図形問題にも、自分で図形を動かしてみたり、等しいところを探してみたりと、柔軟な発想や多角的な視点の持ち方が大切になる場合があります。そういう発想や目を養うには、ある程度時間をかけて自分で糸口を見つける努力が欠かせません。そうした習慣は、図形問題に限らず、先々の勉強に必ず役立つはずです。結局、自分で発想したことでなければ、自分の力にはなりませんし、自分で気づいたときの喜びは次への意欲にもつながりますから、ぜひ大切にしたいと思います。

 ただし、中学受験が近づいている場合には全体のバランスを考えることも大切です。中には、「自分にとって大事なのは、この問題が解けるかどうか」という状態になって、先に進めなくなっている生徒もいます。そういうときには、私たちが適切に助言したり導いたりすることが必要になってきます。

三浦:越川先生の図形問題のご指摘は実に象徴的だと思います。私は高校生も教えていますが、ベクトルの技法がまだ身についていない生徒の場合には、ベクトルの技法をしっかり指導をします。しかし、ベクトルの技法を身につけた上でなら、図形を図形として見る力を持っていることが発想の幅を広げることになります。そのためには、眞田先生のお話にもあったように、早い時期から、手を動かして考えてみるとか、視点を変えて見るといった習慣や、越川先生のおっしゃる、ときには3日間ぐらい考え続ける姿勢も大事です。それが、受験においても必ず役立ちますし、その先の「知の力」を活かすことにもつながると思います。

②へつづく…

算数×数学講師座談会 出席者のご紹介

・眞田 素・・中学受験グノーブル教務本部長・算数科
・三浦 勇二・・大学受験グノーブル数学科・中学受験グノーブル算数科
・纓田 邦浩・・大学受験グノーブル数学科
・越川 将也・・大学受験グノーブル数学科